社会課題解決の現場で働く方々からお話を伺い、その内容をインタビュー記事として発信するWebメディア「ソーシャル・ウォーカー(Social Walker)」。市⺠活動やソーシャルビジネスに焦点を当て、事業内容や背景にある社会課題、行政だけでは課題が解決されない理由などを独自インタビューを基に発信しています。
第5回目は、「NPO法人 日本ホームスクール支援協会」の理事である山田 みな子さんにお話を伺いました。
学齢期の子どもの学び場として、学校への通学が“当たり前”といった風潮が根強い日本社会。欧米では、家庭を拠点とした子ども主体の学習環境である「ホームスクール」の普及が進んでいます。
日本で「ホームスクール」の普及に長年取り組んでいるのが「NPO法人 日本ホームスクール支援協会」です。ITの普及とコロナ禍を背景にした学習環境の変化に伴い、今「ホームスクール」の考え方が日本でも注目されています。
団体紹介
名称 | NPO法人 日本ホームスクール支援協会 |
公式HP | https://homeschool.ne.jp/ |
事務所所在地 | 〒141-0001 東京都品川区北品川五丁目12番4号 |
問合せ先 | 03-3446-2541 |
事業内容 | ・ホームスクール家庭の支援 (学校との連絡協議、家庭学習のカリキュラム作成支援、学習障がいや発達特性などのスペシャルニーズを必要とする家庭への対応) ・学校以外の教育選択肢に対する保護者理解の促進 ・ホームスクールに関する書籍情報の提供 |
今回お話を伺った人
山田 みな子(やまだ みなこ)さん
「NPO法人 日本ホームスクール支援協会」理事
■プロフィール
4児の母。第1種中高音楽教諭免許。学童保育、児童センター、公立校での補助教員等、子どもと関わる仕事に従事。現在は日本ホームスクール支援協会の理事として、企画や広報を担当。
――山田さん、本日はどうぞよろしくお願いします。
山田さん:よろしくお願いします。
「ホームスクール」も当たり前に選択できる日本社会へ
――はじめに、「日本ホームスクール支援協会」の活動概要を教えていただけますか。
山田さん:当協会は2000年に設立し、東京都品川区に拠点を置きホームスクールの支援活動を行っています。ホームスクールとは、「不登校」を自由で自主的な「ホームスクーラー」と捉え、家庭に拠点を置いて学びを進めていくことです。この「ホームスクール」の概念を日本社会に浸透させ、通学しない子どもたちを支援するための各種支援サービスを提供しています。
――山田さんが事業に携わるきっかけとなった原体験はございますか。
山田さん:小学生の娘が学校へ行けなくなってしまったことをきっかけに、ホームスクールという選択肢もあることを知り、詳しく調べていくうちに日本ホームスクール支援協会と出会いました。ホームスクール経験者の方々から学びを深めつつ、色々とお手伝いをさせていただくようになり、事業にも携わるようになりました。
運営に携わりたいと思った背景には、以前教員として公教育に携わっていた経験があります。公教育のあり方に懐疑的な部分もあったことや、いろいろな子を見てきた中で、ホームスクールという選択肢があればもっと輝いた子も居たのではないかと思ったのです。ホームスクールを必要とする子に手を差し伸べられるようになれたらなと思い、活動しております。
活動の背景には多様化する子どもの学習ニーズや日本と欧米の教育に対する意識の差
――活動の背景には、どのような社会課題が挙げられますか。
山田さん:令和3年度の国立、公立、私立の小・中学校における不登校児童生徒数が約24万5千人相当であるとされており、不登校生徒の増加は社会問題と化しています。これは一見すると通学しない生徒の増加が社会問題のように思えますが、本質はそうではないと思っています。毎日通学して教室で勉強するのが向いている子もいれば、違う環境で勉強する方が向いている子もいます。生き方や価値観が多様化する中、通学しない選択が当たり前のようにできる状態になっていないことが問題ではないかと考えています。
学習環境の多様化に対する意識は欧米と比較しても遅れていて、例えば、アメリカでは親が子どもの教育機会を決定してよいことになっており、州によって法制度にばらつきがあるものの、全州でホームスクールが一つの選択肢として認知されています。一方、日本では「就学=通学」というのが一般的で(※)法律の中にホームスクールを認知する明確な記載はありません。しかし、実際には多種多様な学びの形態があります。日本の法律は学校での教育が前提になっていますが、子どもたちの学びの形態はもうそこに留まっていないのです。そのため、「登校」「不登校」の二元論ではなく、教育の新たな選択肢としてホームスクールという概念を広める必要があると感じています。
※学校教育法では、学校に就学させることが保護者の義務となっており、「就学=学校に通う」という前提が読み取れる。憲法では「学校に通う」ことが義務とは明記されていない。
――課題の解決にあたり、行政だけでなくNPOなど民間の力が必要になるのはなぜでしょうか。
山田さん:子どもたちの学習ニーズは多様化し続けています。特に通学しない子どもたちやその家庭に対して、迅速かつ的確な支援を提供するためには、独自のアプローチや柔軟性が求められます。しかし、行政や大型の公共サービスはその性質上、新しい取り組みや変革を実現するのが難しく、多くの場合動きが鈍いという課題があります。行政や公共サービスとの連携はもちろん重要ですが、現状の教育の課題に対して、迅速かつ柔軟に対応できるのは民間の特性を持つNPOなどの団体であると感じています。
NPO法人は企業と違って営利を目的にしておらず、中立的に運営される仕組みがあります。そのため、特定の利害関係にとらわれず、公平な活動に向いています。また、寄付やボランティアを集めることで、無償でのサービス提供が可能です。経済的ハードルが新たな障壁となり、多くの家庭が支援を受けられない可能性があるため、私たちも学習環境に困難を抱える家庭に対価を求めることは、できる限り避けています。具体的な取り組みとして、私たちが運営するオンラインコミュニティ『ゴーストスクール』はコミュニティの基本利用は完全無料です。ゴーストスクールは、ホームスクール家庭が気軽に参加できる場であり、こうしたアプローチからホームスクールに取り組みやすい環境を提供し、同時に孤立感を減少したいと考えています。
大切なのは、子ども自身の興味・才能に合わせて環境が選べるようになること
――活動をする上で最も大切にしていることは何でしょうか。
山田さん:私たちの究極的なゴールは、「不登校」という言葉やその背後に潜む社会的にネガティブな印象、通学が正しいものという同調圧力を完全に取り除くことです。
私たちが目指すのは、一つの教育方法や学びの場がすべての子どもに合うわけではない、という事実を社会全体が受け入れること。そして、その認識の下で、各子どもや家庭に最も合った学びの環境を実現する取り組みを広げていきたいと考えています。
学校教育のような「集団教育」はコミュニケーション能力を育むうえで必要だと考えていますが、そのような環境が合わない子どもたちも居ます。私たちはその点を重視していて、子どもたちが自身の興味や才能に合った環境で学べることが大切であり、それが尊重される社会を目指しています。私たちの活動は、子どもの個性や能力を最大限に引き出す教育環境を築くためにあります。ホームスクールが一番大切にしているのは、学習の根幹にある「知的好奇心の育成」であり、今の学校教育では、この部分が不足しているのではないかと思います。学校教育とホームスクーリングが互いに補完し合い、「知的好奇心」「学力」「コミュニケーション能力」を育むことが、最善の教育システムだと私たちは確信しています。
――今後の活動方針や新しく取り組みたいことなど、具体的な展望がありましたらお教えください。
山田さん:ホームスクールを日本でも広めるために、教育関連法の法改正やホームスクールに関する法整備を視野に入れて、日々活動に邁進しております。また、当協会が運営するオンラインコミュニティ『ゴーストスクール』では、全国のホームスクーラーとその保護者が集い、日々活発な活動や意見交換が行われています。このサービスをさらに拡充させ、ユーザーの満足度を上げ、新規ユーザーの獲得や、広く「ホームスクール」ということばを知っていただくためにも、SNSでの発信も続けていきます。
【ライブ配信】次回予定は10月17日(火)12:00~
――最後に、今ニュースとして特に発信したいことはありますか。
山田さん:4つあります。1つ目は、ホームスクール家庭が心の拠り所として「所属」を感じられるオンラインコミュニティ『ゴーストスクール』の拡大と充実です。ゴーストスクールでの活動を、学習成果として公的な賞状等に結びつける方針を検討中しています。
2つ目は、 ホームスクーラーと学校との連携強化です。ホームスクールの認知度はまだ学校現場において十分ではありません。そのため、ホームスクーラーと学校との連携を円滑に進めるための資料作成に注力しています。
3つ目は、 個別サポートの提供です。ホームスクールのカウンセリングやカリキュラム制作支援、学びの成果物をまとめるポートフォリオの作成支援など、様々なサポートを有料で提供していきます。
4つ目は、 認定制度の導入と拡大です。ホームスクールに対する理解を深めるための塾や教育機関との連携を強化するため、認定制度の導入と充実を進めています。今後は、各エリアにホームスクールの相談窓口やサポートを行う「認定校」や「認定カウンセラー」を増やしていく予定です。
これらの取り組みを通じ、私たちはホームスクーリングの家庭が更に充実した教育を受けられるようサポートしてまいります。