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子どもたちが「今」必要としている場所をつくり、再現可能なモデルとして岐阜市から全国へ―NPO法人スマイルバトン

ソーシャル・ウォーカー


社会課題解決の現場で働く方々からお話を伺い、その内容をインタビュー記事として発信するWebメディア「ソーシャルウォーカー(Social Walker)」。市⺠活動やソーシャルビジネスに焦点を当て、事業内容や背景にある社会課題、行政だけでは課題が解決されない理由などを独自インタビューを基に発信しています。
第16回目は、「NPO法人スマイルバトン」の副理事である岩田 龍明さんにお話を伺いました。


少子化にも関わらず、年々増え続ける不登校児童生徒数。文部科学省の調査によると、小・中学校の不登校児童生徒数は12年連続で増加し、令和6年度は約35万4千人と過去最多を記録しました。従来の公教育だけでは子どもたちからのSOSの声をすべて受け止めることは難しく、多様な学びの場の必要性が一層高まっています。

NPO法人スマイルバトンは、家庭の経済状況にかかわらず、子どもたちが必要な学びにアクセスできる社会をつくることを目指し、保護者の経済負担を抑えたオルタナティブスクール「学藝の森CoE」を運営しています。


団体紹介

名称NPO法人スマイルバトン
公式HPhttps://gakugeinomori-coe.com/
事務所所在地〒502-0813 岐阜県岐阜市福光東2丁目7-12サンライズ北野2階
問合せ先https://gakugeinomori-coe.com/contact/
事業内容・不登校を経験し、学校外に学びの場を求める子どものためのオルタナティブスクール運営事業
・学童保育や学習塾の運営
・教育行政や教育機関との連携プロジェクト事業
・不登校を経験した保護者の就労支援事業
・教育実践や学び場づくりの知見を社会にひらく事業

今回お話を伺った人

岩田 龍明(いわた たつあき)さん
「NPO法人スマイルバトン」副理事
「学藝の森CoE」スクールディレクター
■プロフィール
大学院修了後、岐阜市の小学校に6年間勤務。その後2年間、放課後子ども教室・学童保育の立ち上げ、運営を経験。その傍らで「先生の学校」のプロボノメンバーとしてライティングやイベント運営サポートに携わり、2022年7月より株式会社スマイルバトンにジョイン。
2024年10月より、NPO法人スマイルバトン副理事に就任し、2025年4月に開校した「学藝の森CoE」のスクールディレクターを務める。


――岩田さん、本日はどうぞよろしくお願いします。

岩田さん:よろしくお願いします。

保護者の経済負担を抑えた学び場をつくりたい


――はじめに、「NPO法人スマイルバトン」の活動概要・活動地域を教えていただけますか。

岩田さん:岐阜県岐阜市で、2025年4月から「学藝の森CoE」というオルタナティブスクールを運営しています。学校に通うことが難しかったり、学校以外の学びの場を必要としていたりする小学生が通うスクールで、現在は1〜6年生の22名が在籍しています(2026年7月現在)。開校当初は1〜4年生を対象としていましたが、現在は6年生まで対象を広げ、定員も16名から25名へと増やしました。

さらに、発達に凸凹があったり、学習に遅れや苦手意識があったりする子どもたちが学び直せる、少人数制の個別支援塾「with」を2025年12月に開校しました。

また、2025年11月には、保護者の就労支援事業「Neighbor Works(ネイバーワークス)」もスタートしました。CoEに通う子ども、特に低学年の子どもの中には、安心して過ごすために保護者の付き添いが必要な場合があります。その結果、保護者自身が働く時間を確保できないという課題が見えてきました。そこで、スクールに隣接した場所で仕事ができる環境づくりにも取り組んでいます。

出典:公式HP



――在校生は、基本的に岐阜市内の方ですか。

岩田さん:岐阜市内のご家庭が多いですが、近隣の市町や愛知県から通っている子もいます。居住地による受け入れの制限は、特に設けていません。

――「オルタナティブスクール」とは、どのようなスクールなのでしょうか。

岩田さん:大きな括りでは、フリースクールの一部と考えてもらえるとよいと思います。明確な定義があるわけではありません。

しかし私たちはCoEを開校するにあたり、「子どもたちの声、すべての人の声を大切にする場所」をつくりたいと考えました。子どもたちが「ここにいたい」と思える居場所であることはもちろん、学びにも触れられる環境にしたいと考えていました。
こうした理念を明確に掲げて運営していることから、私たちはCoEを「オルタナティブスクール」と位置づけることにしました。

「スクール」とはいえ、通常の公立学校とは異なるいわゆる無認可の学び場のため、子どもたちは、それまで通っていた公立学校に籍を置きながら、CoEに通っています。

――活動の背景には、どのような社会課題が挙げられますか。

岩田さん:不登校当事者を対象に行われた全国調査によると、約7割が不登校期間を自宅で過ごしているという結果が出ています。私たちはこの事実に衝撃を受けました。もちろん、自宅で過ごすこと自体が悪いわけではありません。

ただ私もこれまで小学校や学童保育で勤務経験があるのですが、子どもたちの元気なエネルギーを自宅だけで発散させたり、昇華させたりすることは、とても難しいのではないかと感じています。
しかし、日本の小学校は全体の98%が公立学校です。そのため、一度学校に行けなくなると、他につながる選択肢がほとんどありません。

また、万が一居場所が見つかったとしても、保護者の経済負担が大きく、通うことが難しい家庭も多いのが現状です。そのため私たちは、公立学校と民間の居場所の「間の選択肢」を、保護者の経済負担を抑えた形でつくろうと考え、「学藝の森CoE」が生まれました。

出典:不登校の子どもと保護者実態ニーズ全国調査報告


「社会モデル」発想に立ち、子どもにリスペクトのまなざしを


――開校2年目を迎えましたが、在校生や保護者、教育関係者の反応はいかがでしょうか。

岩田さん:この1年間で、子どもたちには本当にいろいろな変化がありました。
CoEで大切にしている学びの一つがSocial Emotional Learning(SEL)という学びです。これは日本語で「社会性と情動の学び」と訳され、自分の気持ちに気づき、言葉にしたり、他者との関わり方について学ぶというもの。

例えばこの学習を続けていく中で、友達との間でトラブルが起きたとき、以前は感情が昂ると手が出てしまっていた子が、少しずつ「自分はこう感じた」「本当はこうしたかった」と言葉で伝えられるようになったり、対立を対話で解決しようとしたりする姿が見られるようになりました。

気持ちが整ってくると、学習面にもいい影響が出てきました。例えば、読み書きや計算に取り組めるようになった子、友達の輪が広がった子、自分から「CoEのために何かできることはないかな」と貢献したい意欲が湧き始める子など、本当にいろいろな育ちがありました。そうした中で、自分から「学校に行ってみよう」と思い、従来の学校へ足を運び始めた子もいます。


ただ、私たちは学校に戻ったこと自体を「成功」だとは考えていません。
CoEで学び続けることを選ぶのも同じように大切な選択です。「学校に行ってみたい」と思ったらその一歩を支え、「今はCoEで過ごしたい」と思ったらその時間を支える。そして、途中で気持ちが変わっても、また選び直せる。子どもの育ちを「学校に通えるようになったかどうか」だけで捉えないことは、1年間実践してきた中で、私たちがより強く大切にするようになったことです。


また、教育関係者の方々にも見学や視察にお越しいただいています。昨年度は、全国の教育委員会などから40組以上の方々に視察にお越しいただきました。
今年度は、私たちの活動を知って関心を持ってくださった岐阜市長や教育長にも直接足を運んでいただき、地域社会からの評価や期待も少しずつ高まっていると感じています。

◆視察研修に関する情報

――オルタナティブスクールの立ち上げ・運営の裏側には、相当な苦労があるのではないかと思います。今まで特に苦労したこと・現在も苦労していることなどありましたら教えてください。

岩田さん:大きく二つあります。
岐阜市内の一般的なフリースクールでは、利用料がおよそ月額50,000円ほどで、週4日・昼食代別で月額44,000円ほどのケースもあります。それに対し、CoEは週5日通えて、昼食代込みで月額33,000円です。

一方で、保護者の経済的な負担を抑えながら、事業として持続させていくことには難しさがあります。そのため、地域をはじめ全国の方々から寄付をお預かりしたり、さまざまな助成金を活用したりしています。また、自主事業として、ニーズに合わせた個別支援塾や学童保育なども運営し、複合的に収益を確保しながら、持続可能な事業モデルを模索しています。

現在は開校2年目に入り、初年度の運営実績に加えて認知度も高まってきました。寄付をしてくださる方や、活用できる助成金も増えてきており、継続的に事業を運営できる見通しも立ちつつあります。


もう一つは、子どもたちとの関わりです。一度学校に行きづらくなった子どもたちの中には、何かしら傷ついた経験を持つ子もいます。一人ひとりに多様な背景や特性がある中で、その子を理解し、その子に合った関わり方を見つけていく。言葉にするのは簡単ですが、実践するのはとても難しいことです。今も毎日悩み、試行錯誤を重ねながら、子どもたちと向き合っています。

――CoEの取り組みに影響を与えている経験はありますか。

岩田さん:私たちはNPOの他に「株式会社スマイルバトン」を運営しています。そこで取り組んでいる事業が、「先生の学校」という教育メディアコミュニティです。
「先生の学校」では、日本全国・世界各地の教育実践を取材し、雑誌や動画にまとめてお届けしているため、たくさんの学校を取材のために訪れます。不登校の子どもたちの現状や、不登校を支援する団体の取り組みについても、たくさんお話を聞いてきました。
撮影や取材で様々な教育現場を訪れる中で、子どもたちが心から笑ったり、泣いたり、怒ったり、本気で感情を動かしている場面に遭遇してきました。今、子どもたちに必要なのは、最新の教育設備ではなく、「今、子どもたちが命を輝かせられる場所」をもっと増やすことではないかと感じました。

また、取材をする中で子どもたちにリスペクトのまなざしを向けて関わる先生たちとたくさん出会い、学ばせていただいています。
取材を通して「学びの特等席」に座らせていただき、そこで学んだことを現場で実践する。その繰り返しをさせてもらえていることは、とてもありがたいと思っています。

――活動をする上で大切にしていることは何でしょうか。

岩田さん:「個人に原因を求めるのではなく、環境に要因はないかと探ること」を大切にしています。子どもが困ったサインを出したとき、その子自身だけに原因があるとは考えません。周囲の音や匂い、道具の使い勝手など、環境側に要因があるのではないかと考えます。
これはDEI1の「社会モデル」に基づいた発想で、周りの環境(モノ・ヒト・コト)を調整することで、子どもたちの困りごとや生きづらさは取り除いていけると常に意識し活動しています。

そのため、空間設計にもさまざまな工夫をしています。例えば、周囲からの視線が気になる子のために、本棚やソファの置き方を工夫して視線を遮ったり、音に敏感な子のためにイヤーマフを用意したりしています。また、読み書きが苦手な子でも、必要に応じてPCやタブレットを使えるよう、「ひらがな表」「カタカナ表」「ローマ字表」なども常に置いています。

子ども自身を変えようとするのではなく、まずは周囲の環境を調整することで、子どもたちの不快を減らし、それぞれがやりたいことに取り組める環境をつくることを大切にしています。

出典:公式HP

運営ノウハウを体系化し、学びの場の選択肢を全国で増やしたい


――先ほど挙げて下さった社会課題の解決にあたり、行政だけでなくNPOなど民間の力が必要になるのはなぜでしょうか。

岩田さん:行政でも不登校の課題を解決する取り組み自体はあります。実際に岐阜市内だと、2021年4月に岐阜市立草潤中学校という学びの多様化学校(旧:不登校特例校)が開校していますが、受け入れ人数は全体で40名程度と多くはありません。
また、校内フリースクールを作る計画もありますが、公教育の中で作っていくと場所や制度などを整えるのに時間がかかるようです。

だからこそ、民間がスピード感をもって動くことで、「今困っている子たち」に手を差し伸べられる環境をつくることが必要だと考えています。

――今後の活動方針や新しく取り組みたいことなど、具体的な展望がありましたらお教えください。

岩田さん:中学部の開校や、CoEモデルの全国展開に加えて、スクール運営で培ったノウハウやリソースをオープンソース化して、最終的には公教育に取り入れてもらうことで、公教育が誰一人取り残さない場になってほしいと考えています。

オープンソース化については、現在いろんな切り口で形にしており、不登校を経験した保護者向けガイドブックの作成や、CoEの1年間のノウハウをまとめた冊子を制作しています。
これまで取材や実践によって蓄積してきた、多様な人を包摂するための教育のあり方を「パターン・ランゲージ2」という手法を用いて言語化し、出版したいと考えています。


「NPO法人スマイルバトン」を支援する方法

岩田さん:寄付金でのご支援、ボランティアや視察研修の受け入れを行っています。

ボランティアについては、主に子どもたちと直接関わっていただいたり、バックヤードのサポートをお願いしたりしています。現在は、期間限定でCoEの取り組みを言語化するサポートをしてくださる方もいらっしゃいます。得意分野を活かしていただけたらと考えておりますので、詳しくはお問い合わせください。

また、視察研修については、教育関係者の方に限らず、どなたでも受け入れています。これから会社で同様の事業を始めたいとお考えの方や、不登校の子どもを持つ親御さん、教育の勉強をしている主婦の方など、幅広い方にお越しいただいています。ぜひお気軽にお問い合わせください。


【問合せ先】https://gakugeinomori-coe.com/contact/

 
  1. 多様性(Diversity)、公平性(Equity)、包括性(Inclusion) ↩︎
  2. 元々は 1970 年代に建築の分野で導入された、「良い建築とは何か」といったことを言葉にしていく取り組み ↩︎