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金銭教育の早期化・ユニバーサルデザイン化で、すべての消費者に健全な消費生活を-消費者教育NPO法人 お金の学校くまもと

ソーシャル・ウォーカー

ソーシャルセクターで働く方々からお話を伺いながら、社会課題の世界を散策するインタビュー記事コーナー「ソーシャルウォーカー(Social Walker)」。市⺠活動やソーシャルビジネスを行っている組織の活動をより多くの人にお伝えしていきます。
第2回目は、「消費者教育NPO法人 お金の学校くまもと」の代表である徳村 美佳さんにお話を伺いました。

金銭教育の早期化・ユニバーサルデザイン化で、すべての消費者に健全な消費生活を-「消費者教育NPO法人 お金の学校くまもと」徳村 美佳さん

多重債務問題を未然に防ぐため、子どもの頃からの消費者教育(予防教育)や多重債務者の生活再建支援(再発防止)に取り組んでいる「消費者教育NPO法人 お金の学校くまもと」。
「お金の学校くまもと」では、消費者一人ひとりが自立してお金と上手に付き合うことができる社会を目指し、消費者問題に関する調査や研究、政策提言なども行っています。

団体紹介

名称消費者教育NPO法人 お金の学校くまもと
公式HPhttps://o-kane.net/
事務所所在地〒862-0950 熊本県熊本市中央区水前寺1-6-11 セシール水前寺701号
問合せ先TEL/FAX 096-384-4453
事業内容・多重債務の予防教育活動
・多重債務者の生活再建支援
・ネットワーク作り

今回お話を伺った人

徳村 美佳(とくむら みか)さん
「消費者教育NPO法人 お金の学校くまもと」代表
■プロフィール
消費生活アドバイザー・消費生活専門相談員。公認心理師。
県北の自治体を中心に消費生活センター相談員を経験。


――徳村さん、本日はどうぞよろしくお願いします。

徳村さん:よろしくお願いします。

健全な消費生活実現に向けた「お金の学校くまもと」の多様な取り組み

――はじめに、「お金の学校くまもと」の活動概要を教えていただけますか。

徳村さん:当法人は「多重債務問題の未然防止活動」をミッションとしており、そのためには法人名にもあるように“消費者教育”が大切だと考え活動をしています。
主な活動内容としては、「多重債務者の生活再建支援(債務者教育やクレジットカウンセリング)」と「子どもの頃からの金銭教育」に取り組んでいます。

――事業を立ち上げるきっかけとなった原体験や出来事はございますか。

徳村さん:きっかけは、熊本県で消費生活相談員をしていた際、多重債務のご相談を多く受けていたことにあります。
NPO立ち上げの経緯としては、相談員の仕事が好きでしたが、以前は5年で雇止めとなってしまう時代で…。次の職を考えていた際、西村 隆男先生の著書『クレジット・カウンセリング―多重債務者の生活再建と消費者教育』と出会い、その内容にとても共感したのです。そんな折、偶然にも熊本県が主催するイベントで西村先生とお会いする機会に恵まれて。運命的とも思えるような西村先生との出会いが発端となり、とんとん拍子に仲間が集まり、気が付いたらNPOを立ち上げていました。

――続いて、活動内容についてより詳しく伺いたいのですが。「子どもの頃からの金銭教育」は具体的にどのような内容なのでしょうか。

徳村さん:主に小・中学生を対象としたワークショップを開催しています。ちなみに、経験した中での最年少は保育園児の2歳半の子達でした。その時は、1個の飴と10個の飴を見せて「どっちが欲しい?」というところから、“欲しい”と“必要”について学ぶ機会を作りました。

――「多重債務者の生活再建支援」についても詳しく教えていただけますか。

徳村さん:それぞれに抱えている問題や事情が異なるため、一言で生活再建支援と言っても、その内容は様々です。
例えば、健常者の方で安定した収入はあるが借金を繰り返してしまうケース。そうした場合は単純に家計管理ができていないだけなので、収支のバランスを把握してもらい、正しい家計管理方法を学んでもらいます。
しかし、そのようなケースは稀です。そもそも無収入または不安定な収入の方、DVの問題を抱えていたり、精神疾患や何らかの障がいがあったりする相談者の方が多数を占めます。支援としては、まず借金の一覧表作成、収支の確認など状況整理から取り組み、自己破産手続きにあたっては法律の専門家に繋ぎます。また、生活を安定させることや治療等が優先されるケースでは、各分野の専門機関に取り次ぎます。相談者の方が債務問題に対応できる状態になれば、多重債務の再発防止に向け、クレジットカウンセリングや金銭管理について学べるよう債務者教育を行います。


活動の背景には“既存の形式に囚われない支援方法の必要性”

――活動の背景には、どのような社会課題が挙げられますか。

徳村さん:日本における金銭教育の未熟さや多重債務者問題への理解不足などがあります。

また、多重債務者問題の背景には下記の図のようないくつかの要因があり、債務者個人の問題だけでなく社会的な課題もあることが分かります。


多重債務問題は表面化した問題であり、根本には様々な問題が潜んでいます。そのため、債務者個人だけでの解決が難しく、支援が必要とされる問題なのです。

出所:相談窓口の設置に向けた 自治体の取り組みについて – 金融庁


――なぜ行政だけではなく、民間の力が必要なのでしょうか。

徳村さん:厳しい言い方かもしれませんが、行政が行っている現在の枠組みでは、支援の限界を感じています。支援方法が、支援を受ける当事者に寄り添った内容ではないからです。

厚労省の事業で行われている「家計改善支援」では、一般的な家計見直しのメソッドが使われています。しかし、ファイナンシャルプランニング的な手法は、何らかの問題や課題を抱えている事が多い相談者の実態には適した支援方法とは言えません。画一的な支援対応ではなく、ユニバーサルデザインの視点を取り入れた支援対応が必要だと考えています。私達はそうした考えに基づき活動をしており、相談者目線の支援対応に取り組む他、自主研究や政策提言も行っています。

また、お金の教育については、実生活に結びつく学校教育がなされていないと思っています。試験のための金銭教育ではなく、例えば給与明細を使っての授業といった、生活に直結する形での学びが必要だと考えています。


誰一人取り残さない支援のために大切なのは“ユニバーサルデザイン”

――活動を行う上で、最も大切にしていることは何でしょうか。

徳村さん:先程と内容が重なりますが、多重債務者の生活再建支援で言えば、ユニバーサルデザインの視点を活かした支援を大切にしています。誰も取り残すことがないよう、支援方法や教育方法にも“ユニバーサルデザイン”が必要不可欠であり、重要であると考えています。

〈ユニバーサルデザインの視点を取り入れた支援方法の一例〉
・抽象的に数字だけで考えることが苦手な相談者の事例
相談者が納得し、支払いを実行できる支払い計画作成のため、おもちゃのお金を使って費目ごとにお金を置きながら予算立てを実施。

出所:『多重債務の家計管理支援におけるユニバーサルデザインに関する一考察〜対応困難者の存在から〜』

――今後の具体的な展望などありましたら教えてください。

徳村さん:現在進行形の話でもあるのですが、「SOSを出す教育」に力を入れていて、今後は「SOSを受け止める側の教育」にも注力したいと考えています。
多重債務問題は自殺問題と密接な関係にあり、自殺対策の中には多重債務の視点も取り入れられています。普段から相談する習慣作りが大切だと考え、そのためのワークショップを中学生以上を対象として開催しています。大学生が対象のワークショップでは、ソーシャルキャピタルについても扱いました。
また、お金の問題は家族の問題とも密接な関係にあるので、結婚するタイミングに家計について話し合う場を作るような取り組みも今後行えたら良いなと思っています。

――最後に、記事の掲載にあたって特に発信したいニュースなどはありますか。

徳村さん:今回のフロムエドさんからのラジオ出演やインタビューのお声かけは、私個人にとってもお金の学校くまもとにとっても、非常に刺激を受け元気になる、ごきげんな経験でした。ラジオ出演については、熊本大学での授業や県内の自治体の人権啓発担当者研修会で、宣伝をしました。


現在、熊本県自殺対策補助金事業として今年度取り組んだ「SOSを出す教育‐こんなとき どうする?」の報告書を作成中です。来年度は、子どもたちのSOSを出すだけではなく、出しやすい環境を整えるとともに、大人が子どものSOSを受け止められる体制を構築するための事業を展開したいと考えています。


「消費者教育NPO法人 お金の学校くまもと」を支援する方法

徳村さん:私たちの活動に共感し、取り組みの宣伝や実践をしてくれる方、また、同じような活動をされている方との繋がりを増やせたらと考えています。
情報共有を行ったり、活動を広めるアイデアを出し合ったりする「わーわー言うボランティア」があるのですが、そのような繋がりを増やすことで、こうした活動が当たり前の社会になれば良いなと思っています。
メディアの方からの取材依頼も大歓迎ですので、どうぞよろしくお願いいたします。


◆書籍のご案内◆

「消費者教育NPO法人 お金の学校くまもと」では、書籍の発行も行っています。
取り組んでいる内容について、具体的に知ることができる内容です。活動の輪を広げていく第一歩として、一人一人が知識を深めることは大切だと思います。取り組みに興味を持たれた方は、ぜひ読んでみてはいかがでしょうか。購入についてはこちら(公式HP)をご覧ください。

編集担当も個人的に『お金の学校くまもと方式 お金のことを学ぶ本 ー“みる・きく・はなす”お金の学習ー』を購入し、小学生の息子とワークに取り組んでみました。お金について対話を重ねることができ、お金の使い方を共に考えながら学ぶ良い機会となりました。
私は子どもと取り組みましたが、ワーク自体はライフステージごとにテーマが設定されているので、どなたにとってもオススメの一冊です!