ソーシャルセクターで働く方々からお話を伺いながら、社会課題の世界を散策するインタビュー記事コーナー「ソーシャルウォーカー(Social Walker)」。市⺠活動やソーシャルビジネスを行っている組織の活動をより多くの人にお伝えしていきます。
第3回目は、「特定非営利活動法人 目黒子ども劇場」の理事長である青木 奈都子さんにお話を伺いました。
東京都目黒区を中心に、生の舞台芸術鑑賞や子ども主体の集団活動の場を提供している「目黒子ども劇場」。様々な体験活動から子どもの豊かな感性や創造力を育み、幅広い年齢層の交流を通して、子どもと大人が互いに育ち合う地域環境づくりに取り組んでいます。
団体紹介
名称 | 特定非営利活動法人 目黒子ども劇場 |
公式HP | https://www.mkogeki.org/ |
事務所所在地 | 〒152-0003 東京都目黒区碑文谷1-9-13 |
問合せ先 | 03-3713-3581 |
事業内容 | ・舞台芸術鑑賞事業 ・遊び、自然体験事業(対象:子ども) ・子育ち支援事業(対象:乳幼児親子) ・児童館など地域施設との共催事業 |
今回お話を伺った人
青木 奈都子(あおき なつこ)さん
「特定非営利活動法人 目黒子ども劇場」理事長
■プロフィール
幼稚園教諭。保育士。
幼稚園、保育園にて約10年勤務。現在も活動の合間に子どもと関わる仕事に従事。
子ども劇場には子どもの頃から入会、その後リーダー、母親の立場で関わる。
2004年、幼児の会「マシュマロ」(同団体内)を仲間と共に立ち上げ。
2010年、0歳~2歳を対象とした「プチマシュマロ」も発足。双方、現在も継続中。
――青木さん、本日はどうぞよろしくお願いします。
青木さん:よろしくお願いします。
舞台芸術鑑賞や子ども主体の体験活動を通じ、子どもと大人が共に育ち合う
――はじめに、「目黒子ども劇場」の活動概要を教えていただけますか。
青木さん:「子どもと大人を対象に、子どもの権利条約(※)に基づき、文化芸術活動、あそびや自然体験活動を行い、子どもたちの心豊かな成長と、共に育ちあう地域の形成を目指す」というミッションのもと、様々な事業に取り組んでいます。
主な取り組みは、舞台芸術鑑賞事業、子どもが対象の遊び・自然体験事業、乳幼児親子が対象の子育ち支援事業です。その他、文化庁の委託事業である芸術家の派遣事業や児童館など地域施設との共催事業も行っています。
※第31条「休息・余暇権、遊びや文化的・芸術的活動への参加権」、第12条「子どもの意見表明権」
――舞台芸術鑑賞事業がメインの活動になるのでしょうか。
青木さん:そうですね。芝居、音楽、人形劇、伝統芸能といった舞台芸術の鑑賞を子ども達に届けることがメイン活動の一つです。鑑賞事業は年に数回(5回以上)行っていて、各回様々なジャンルの作品から対象の年齢に合わせた公演を開催しています。(公演スケジュールはこちら)
鑑賞事業と同様に、子ども達を対象とした遊びや自然体験事業にも注力しています。こちらの事業では、月1回の自主活動として、野外調理、キャンプ、子どものお祭りなどに取り組んでいます。
また、乳幼児親子を対象とした子育ち支援事業も月1〜2回活動を行っていて、家庭では、なかなか出来ないダイナミックな遊びや公園あそび、ワークショップなど親子で楽しみながら、子育てする親の交流の場にもなっています。
――文化庁の委託事業も行われているとのことですが。
青木さん:はい、「子ども劇場東京都協議会」が文化庁から受託している事業です。それを都内各地の子ども劇場が受け合い、プロの芸術家を小学校・中学校に派遣しています。
活動の背景には文化体験格差の広がりや文化政策の遅れも
――活動の背景には、どのような社会課題が挙げられますか。
青木さん:文化体験の格差や文化政策の遅れ、子どもの権利を基盤とした施策が進まないことが考えられると思います。
文化体験の格差に関しては、コロナの影響によって特に経済の格差も広がり、それに伴って子ども達の体験格差が広がってきています。「体験」と一言で言っても、非日常的な体験の他、人との関わり合いやお友達とのふれあいといったことも含めて考えています。地域や家庭環境によっても差は生じてきますが、今の社会状況により、子どもたちの体験の機会は減少しているように感じます。
文化政策の遅れについては、子どもに限った話ではありません。日本では、文化活動は「生活に余裕のある人が楽しむもの」という意識があるように感じます。そうした社会の中でなかなか文化政策が進まず、自治体ごとの政策に差が生じているのではないかと思っています。
また、子どもの権利(文化権)については先ほどもお話ししましたが、子どもの権利条約(第31条)に於いて、子どもたちは豊かに生きる権利として文化的な生活は位置付けられていますが、実際の私たちの暮らしの中では、浸透していない現状を感じます。
私たちが文化体験を大切にしている理由は、子どもの育ち、子どもが想像力豊かに生きるために必要だと考えているからです。舞台鑑賞も遊び体験もすべて文化体験と捉えていますが、例えば観劇では、登場人物の気持ちに思いを巡らせることで、他者の気持ちを想像したり、思いやったりすることができます。また、それにより自己を知るきっかけにもなるなど、観劇には子どもを育てるそうした奥深さがあります。自然体験活動で言えば、異年齢集団の中で遊ぶことで協調性が育まれ、人と一緒に生きる楽しさを知ることもできます。そして、仲間と共感し達成感を感じる中で子ども達の自己肯定感も育まれ、生きる力へと繋がっていくと考えています。
――課題の解決にあたり、行政だけでなくNPOなど民間の力が必要になるのはなぜでしょうか。
青木さん:子どもの暮らしに寄り添った具体的な活動ができる点が、一つのポイントとして挙げられると思います。行政機関とは異なり、継続的かつ顔が見える関係性の中で、地域資源や人材をいかした活動をつくり出すことができます。人と人、行政と市民、地域を繋ぐコーディネーターとしての役割もあると考えています。
地域の高齢の方と子どもたち、子育て世代と子育てを終えた世代が出会う場をつくったり、行政と市民を繋ぐ活動については、これからというところですが、子育て支援事業の受託(現在休止中)や区民まつり(子どもエリア)の協力などもさせて頂いています。
その時々の“今”の子ども達に寄り添った活動に落とし込むことが得意なのが、地域に密着している私達です。リアルな声を反映した、柔軟かつ迅速な活動を行うことが可能と考えます。
子ども達の主体性を尊重し、話合いを大切にした運営
――活動を行う上で、最も大切にしていることは何でしょうか。
青木さん:赤ちゃんから高齢の方まで、つながりを大切に、思いを共有しています。
運営については、会議を頻繁に行うなどひとつひとつの活動をつくり上げるまでの話し合いを大事にし、皆で関わり合い、つくり合うことを心がけています。
最近の試みとしては、鑑賞事業に於いて、作品選びから当日の係まで子どもたちが主体的に運営する経験をサポートしています。子どもたちの発想は面白いです。
また月に一度の子ども集団活動では、子どもたちの意見や挑戦したいことを尊重して活動をつくっています。
――今後の活動方針や新しく取り組みたいことなど、具体的な展望がありましたら教えてください。
青木さん:学校や児童館など公共の場での活動や、文化ホールとの共催事業に取り組んでいきたいと考えています。すべての子どもに活動を届けたいと思っているので、来場者が安心して足を運べる公共で活動ができたらと思っています。
また、経済的な格差もある中、行政と共に事業を行えればより活動の幅が広がっていくと考えています。お芝居を頼むと費用もかかるので、チケット代を頂戴しなくてはなりませんが、そうするとすべての子ども達にとはいかなくなってしまいます。極端な例ではありますが、学校で無料開催を行えば、誰でも参加できる。子どもも保護者も地域の人も、みんなが安心して気軽に参加できる環境をつくりたいと思っています。
――最後に、記事の掲載にあたり特に発信したいニュースなどはありますか。
青木さん:目黒子ども劇場は、来年2024年10月に50周年を迎えます。これを機に、50周年期間中は1年間を通して様々な企画をし、発信していきたいと考えています。そして、すべての子ども達に文化体験を届けていけたらと思っています。
鑑賞事業はもちろんのこと、子どもが主体的に関わるお祭り、様々な世代や立場の人が交流する座談会、歩みを振り返る記念誌制作なども考え中です。