コンテンツへスキップ

障がい児が思いっきりサッカーに取り組む場―NPO法人 OluOlu

ソーシャル・ウォーカー


社会課題解決の現場で働く方々からお話を伺い、その内容をインタビュー記事として発信するWebメディア「ソーシャルウォーカー(Social Walker)」。市⺠活動やソーシャルビジネスに焦点を当て、事業内容や背景にある社会課題、行政だけでは課題が解決されない理由などを独自インタビューを基に発信しています。
第9回目は、「NPO法人 OluOlu」の理事長である恩田 もとこさんにお話を伺いました。



昨今、スポーツ教室・音楽教室・プログラミング教室など、子どもたちの習い事は多々ありますが、障がい児が安心してのびのび楽しめる場は多くありません。「スポーツ自体は大好き、だけど他の子と同じようには動けないので、その場では思いっきり楽しめない」といった声が聞かれます。
東京都品川区を拠点に障がい児を対象としたサッカー教室等を運営する「OluOlu(オルオル)」では、教室に通う子どもたちが思いっきりスポーツを楽しみ、各々のペースで安心して成長していける場づくりを行っています。また、ボランティア参加者を募り、障がいを持つ人とそうでない人の交流の機会をつくり、お互いに歩み寄れる社会の実現に取り組んでいます。



団体紹介

名称NPO法人 OluOlu
公式HPhttps://www.oluolusports.org/
事務所所在地東京都品川区
問合せ先https://www.oluolusports.org/contact-1
事業内容・障がい児を対象としたサッカー教室の運営
・障がい児またその保護者を対象としたイベントの開催
・障がい児を対象とした企業訪問活動

今回お話を伺った人

恩田 もとこ(おんだ もとこ)さん
特定非営利活動法人OluOlu 理事長
■プロフィール
保育士、社会福祉士としての学びも生かし、障がい児がスポーツを通していきいきと生きていくことを応援しています。


――恩田さん、本日はどうぞよろしくお願いします。

恩田さん:よろしくお願いします。

障がいがあっても、安心・安全に思いっきり楽しめるスポーツ教室を


――はじめに、「NPO法人 OluOlu」の活動概要を教えていただけますか。

恩田さん:東京都品川区を拠点に、障がいを持つ小・中学生を対象としたサッカー教室を開催しています。土日を中心に月2〜3回行っていて、1回あたりのレッスンは60〜90分間です。毎回5〜15名が集まっています。
また、障がい児の保護者を対象とした講演会や、障がい児を対象にサッカー以外のスポーツに挑戦する単発イベント、職場見学・体験を兼ねた企業訪問活動にも取り組んでいます。

サッカー教室(定期開催)の様子
バレエ教室(単発イベント)の様子

――サッカー教室について、他の教室と違う点や工夫している点はありますか。

恩田さん:大まかなレッスンの流れは一般的なスクールと同じです。最初にウォーミングアップ、その後ドリブルやパス練習などを行って、最後に試合をします。しかし、他の教室と違い、コーチは理学療法士などが務めています。障がいについての知識もお持ちなので、障がい児の身体の動きに配慮しながら、コーチをしてくれます。安全を最優先にしながら、たっぷり身体を動かせるレッスンになっていると思います。

また、子どもたちはそれぞれに特性があり、技術習得のペースや気持ちのコントロールなどできることも各々異なるので、一人一人に寄り添い、小さな変化でも褒めるよう意識して関わっています。『グリーンカード』というルールも積極的に取り入れていて、スポーツマンシップを持った行動やフェアプレーをした時、良いプレーをした時にはグリーンカードを出して盛大に褒める。そうすることで本人に自信をつけてもらうことはもちろん、そのプレーを見た周りの子どもたちにも、人を思いやる行動を学んでもらえたらと思っています。サッカーを通して、運動能力の向上だけでなく、協調性や精神力も養っていけるようサポートしたいと考えています。また、「他の子と同じように動けない…」という思いを抱える保護者の方も多いですが、私たちとしては「できる・できない」はあまり重視しておらず、それこそ最初は「頑張ってこの場に来たことが素晴らしい!」という気持ちですし、指示通りに動けなかったとしても「コーチの話を聞けたことが素晴らしい!」という思いです。こうした受け入れ態勢も、他のスクールとは違う点だと思います。











「フェアな心を育んでほしい」
という思いのこもった
手作りのグリーンカード

――恩田さんが事業を立ち上げるきっかけとなった原体験はございますか。

恩田さん:詳しくは公式HPにも書いていますが、息子が先天性の身体障がいを持っており、子育てを通して壁にあたることがありました。幼稚園生の時に参加した一般的な地域のサッカー教室では、障がいがあるためにどうしても指導についていくことができませんでした。とても素晴らしいサッカー教室でしたが、他の参加者に遅れを取ってボールに触ることすらできない状況に気後れしたり、周りの子のちょっとした反応や言葉に悲しくなったりすることもあって、足が遠のいてしまったのです。最初はサッカーへの憧れから「サッカー教室行きたい!」という気持ちを持っていた息子が消極的になり、スポーツを通して心身が健全に育つことを目的としていたのに、親としてももどかしい気持ちを抱いたことを覚えています。
また、副理事長のウォークは長い海外生活を通して障がい者や高齢者との様々な活動の経験があり、地域活動の魅力を身近に体験していました。「品川区での障がい児のスポーツ活動がもっと活発に行われると良いよね」という気持ちが合致し、「全員が安心して思いっきり楽しめる・全員がボールに触れる・全員が成長を感じられる場をつくりたい!」という強い想いでゼロから立ち上げ、2018年4月に任意団体として活動をスタートするに至りました。



障がい者目線で考えられたスポーツ教室・スポーツイベントは数少ない現状


――活動の背景には、どのような社会課題が挙げられますか。

恩田さん:先程お話したように、障がいを持つ子どもが習い事としてスポーツに思いっきり取り組める機会は、健常児と比較し少ないのが現状です。活動する中でも、多くの保護者が私と同じようなもどかしさを経験している話を聞きます。全員がボールに触れる、全員が楽しい、全員が成長を感じられる、子どもにとっても保護者にとっても安全で居心地の良い場所というのは限られているように思います。

――課題の解決にあたり、行政だけでなくNPOなど民間の力が必要になるのはなぜでしょうか。

恩田さん:行政が企画する障がい者向けのスポーツ教室も無い訳ではありませんが、障がい者目線の企画内容ではないように感じることが多いです。また、スポーツは継続が大切だと考えていますが、単発で開催されるものが多く、初めての場に行くハードルの高さも考慮すると気軽に何度も参加できるとは言いがたいと感じます。
子どもたち自らが「楽しそう!」「やってみたい!」という気軽な気持ちでチャレンジできることや、人脈などを生かしてサッカー以外にも色々な活動を展開できることが、民間団体だからこその強みだと思います。また、大学生や高校生、地域の方をボランティアとして広く受け入れていますが、誰もが気軽に参加できる点もインフォーマルな活動ならではだと感じます。



OluOluでの体験が、子どもの成長だけでなく社会にも還元されることを願って


――活動をする上で大切にしていることは何でしょうか。

恩田さん:二つあります。一つ目は、「楽しい!」と感じる活動であることです。「自分が楽しいからやる」という気持ちを持てるように、メニューや声がけに留意し取り組んでいます。障がい児は、リハビリや訓練など“やらなくてはならないからやる”ということが数多くあります。また、学校生活などでもどかしさを感じることも多く、「自分はどうせ自分がやりたい事はできないんだ…」と色々なことに後ろ向きになりがちです。そんな彼らがサッカーや運動を純粋に楽しいと感じ、次のチャレンジに気持ちを向けるステップになれるよう努めています。

二つ目は、「社会にとっても有意義な活動であり続けたい」と思っていることです。OluOluサッカー教室は様々なボランティアに参加していただいていますが、そこにはボランティア活動を通して、今まで知らなかった障がい児について“知っている”にしてほしいという想いがあります。ボランティアとして参加してくださる方の多くは、障がい児がサッカーをする姿を見て、それまで抱いていた障がい児像と異なる障がい児の姿に気づきます。また、障がい児が色々な点で生きづらさを感じることを知ることもあります。そうした気づきや経験からボランティアの方々が得たことを社会に還元し、より良い社会を作るきっかけになればと願いながら活動を展開しています。

――今後の活動方針や新しく取り組みたいことなど、具体的な展望がありましたらお教えください。

恩田さん:長期的にサッカー教室を継続することで、比較的成長がゆっくりな障がい児たちの成長を応援し、彼らがいきいきと生きていくための一つの大切な場所であり続けたいと思っています。
また、現在小・中学生の彼らが、「働く」ということを意識するきっかけになる活動にも今後注力したいと考えています。具体的には、企業にご協力いただいて企業訪問などを行い、子どもたちが希望を持って将来の自分を思い描いていけるようになればと思っています。
現状、障がいがあると将来の選択肢が限られますが、少しの配慮があることで様々な可能性を見出せます。様々な企業と繋がっていくことで、障がい者も多様な働き方が選べる社会を実現できたらと思います。

――最後に、今ニュースとして特に発信したいことはありますか。

恩田さん:2023年の夏に企業訪問させていただいたDHLサプライチェーン様が、東京ボランティア市民活動センター後援の「第9回 企業ボランティア・アワード」大賞を受賞され、私たちもパートナー団体として共に2024年2月に行われた授賞式に出席いたしました。
こちらの賞は、社員の方々がボランティアとして主体的に障がいを持った子どもに配慮した企業訪問を企画・実現したことが評価されました。OluOluはパートナー団体として、障がいを持つ子どもたちを引率しました。訪問当日の体験は、子どもたちだけでなく、保護者そしてOluOluスタッフにとっても大変思い出に残る経験でした。


「NPO法人 OluOlu」を支援する方法

恩田さん:活動資金を寄付してくださる賛助会員様、サッカー教室でボランティアをしてくださる方を募集しています。ボランティアはサッカー経験の有無を問いませんので、どなたでもお気軽に参加していただけたらと思います。

また、現在は大井町・大崎・天王洲のフットサルコートや体育館を中心に活動をしているのですが、場所を抑えるのが難しいため、品川区内や付近でサッカーができる場所(可能であれば屋内)をご提供いただけると助かります。企業訪問先としてご訪問させていただける企業も探しています。障がい者雇用に考えを持っている企業であれば、様々な業種の方々と一緒に歩んでいけたらと思っていますので、どうぞよろしくお願いいたします。