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ストレスとは何かー意味や歴史などストレスを正しく理解しよう

私たち日本人が抱える社会課題の一つに「高ストレス型社会」があります。

普段何気なく使っている「ストレス」という言葉ですが、ストレスとは一体何なのでしょうか。
先日配信したラジオでも高ストレス型社会をテーマにストレスの意味や歴史などお伝えしていますが、そこで話のあったヤーキーズ・ドットソンの法則も含め、今回のコラムではストレスの意味や歴史といった基本的な知識、日本人のストレスについて詳しくまとめていきたいと思います。

ストレスとは何か

ストレスとは、もとは物理学において「外部からの刺激に対する力」を指した言葉でした。
しかし、今回取り上げているような人々のメンタルヘルスについて語られる場合のストレスとは、外部から受けた刺激などによって生じる体の内部の反応(緊張状態)のことを指しています。

また、メンタルヘルスについてのストレスを考える際には、「ストレッサー(=ストレス要因)」と「ストレス反応」を分けて考えることが重要とされており、ストレッサーとストレス反応を合わせて「ストレス」と総称されます。
物事には原因と結果があるとすると、ストレッサーは原因側、ストレス反応は結果側の概念です。

 
【ストレッサーについて】
個人にとって心理的もしくは身体的な負担となるような出来事、つまりストレスの原因となる外的刺激を指す「ストレッサー」ですが、大きく4つの要因に分けて考えられます。

① 環境的要因(物理的/化学的ストレッサー):寒冷・高温・有害な化学物質など
② 身体的要因(生理的ストレッサー):病気・飢餓・睡眠不足など
③ 心理的要因(心理的ストレッサー):不安・恐怖・怒りなど
④ 社会的要因(社会的ストレッサー):学校や職場、家庭における人間関係の不和や緊張・過労など

4つの中でも、特に心理的・社会的要因によってストレスを抱える人が多いと言われています。意外に思われるかもしれませんが、一般的に祝い事とされる進学・就職・結婚・出産といった喜ばしい出来事も一つの変化であり外的刺激となるため、ストレスとなります。

 
【ストレス反応について】
ストレス反応とは、ストレッサーによって引き起こされる心理的・身体的・行動的反応のことです。

■心理的ストレス反応
イライラする、憂鬱、不安、緊張、興奮、混乱 など

■身体的ストレス反応
不眠、食欲低下、動悸、冷汗、胃痛、下痢、頭痛、めまい、倦怠感 など

■行動的ストレス反応
暴飲暴食、喫煙量の増加、遅刻や欠勤、ミスが続く など

ストレスが生じた際には、それを解消しようと体内で防御反応が働きストレス反応が現れますが、現れ方は個人差が大きく、個人の受け止め方によって「良いストレス」になるか「悪いストレス」になるかが異なります。

 
 
~「良いストレス」と「悪いストレス」~
過度なストレスは心身に悪影響を及ぼしますが、適度なストレスはパフォーマンスの向上に繋がります。ストレスと言うとネガティブな印象が強いかと思いますが、ストレス自体は必ずしも悪いものではなく、コントロール次第ではポジティブに作用するのです。

 
◎ヤーキーズ・ドットソンの法則
ヤーキーズ・ドットソンの法則とは、パフォーマンスと緊張(ストレス)の関係を表した理論で、高すぎず低すぎない最適なストレス下で、人は最高のパフォーマンスが発揮できる、という法則です。つまり、適度な緊張状態は個人の能力を最大限に引き出す、ということです。

出所:ヤーキーズ・ドットソンの法則とは?最適な緊張感が最高のパフォーマンスをもたらす

ストレスの歴史

メンタルヘルスにおけるストレスが広く唱えられるようになった起源は、1936年にカナダの生理学者であるハンス・セリエが発表した「ストレス学説」であるとされています。

もともと物理学で使われていたストレスを、フランスの生理学者クロード・ベルナールやアメリカの生物学者ウォルター・B・キャノンらが生理学に応用し、その後ハンス・セリエが研究を進め、学術的にストレスが登場したのが今から85年前の1936年。ハンス・セリエの研究発表以降、ストレスが健康に影響を及ぼすという研究が数多く行われ、現在の医学的ストレス概念に大きな影響を与えました。

 
【ハンス・セリエ(1907-1982)】
ハンガリー系カナダ人の生理学者。1936年に「ストレス学説」を発表。
ストレッサー(=ストレスを引き起こす外部環境からの刺激)に対し、これに適応しようと生体に一定の反応が起こることを発見する。これを「適応症候群」とし、全身に起こる反応を「全身適応症候群」としました。

※全身適応症候群…大きく3つの時期があり、ストレッサー遭遇直後に抵抗力が一時的に低下する「警告反応期」、その後身体が適応しようと抵抗力が上昇する「抵抗期」、さらにストレッサーが継続することで再び抵抗力が低下する「疲はい期」に分かれます。

 
 
~日本社会における「ストレス」浸透の歴史~
日本社会において「ストレス」という言葉が使われるようになったのは、1950年代、戦後急激に社会が変化している中でのことでした。1957年には、ハンス・セリエの来日にともない「ストレス」が流行語にも選ばれ、ストレスが国内で広く知れ渡るきっかけになったと思われます。しかし、現在のようにストレスが社会に浸透し一般化したのは1980年代のバブル期で、1985年にはストレス問題を研究する「日本ストレス学会」が発足されています。

日本でストレスを抱えている人

厚生労働省が2019年に行った国民生活基礎調査を見てみると、日常生活での悩み・ストレスを抱えている12歳以上(入院者を除く)の割合は「ある」が47.9%、「ない」が50.6%となっています。

出所:厚生労働省「令和元年国民生活基礎調査」(図20)

 
また、悩み・ストレスを抱えている人の割合を男女別にみると、男性で43.0%、女性で52.4%となっており、男性に比べ女性の方が高い割合であることが分かります。加えて年齢階級別では、男女ともに30代~50代が高く、男性では約5割、女性では約6割となっています。

出所:厚生労働省「令和元年国民生活基礎調査」(図21)

 
続いて、こころの状態について見てみると、入院者を除く12歳以上の過去1か月間の心の状態を点数階級別で評価すると「0~4点」が最も多く、その割合は68.3%。年齢階級別に点数階級をみても、全ての年齢階級で「0~4点」が最も多くなっています。

※点数階級別…6つの質問に対して5段階(0~4点)で点数化し合計したもの。最高点は24点(6×4点=24点)。

なお、不安障害や気分障害に相当する心理的苦痛を感じている人(=10点以上の者)の割合は、20歳以上で10.3%。10点以上の割合が最も多いのは20代の14.4%で、20代は深刻なストレスを抱えている人が多いことが分かります。

出所:厚生労働省「令和元年国民生活基礎調査」(図22)

海外と比較した日本人のストレス

海外と比較した際に日本人は「メンタルが弱い」とよく言われますが、それは遺伝子的にストレスに弱いことが一つの要因として挙げられます。
脳内には、セロトニンという感情や気分を安定させる役割をしてくれる神経伝達物質がありますが、このセロトニンがより多く出るLL型を持つ人が外界の影響を受けにくく、発現量の少ないSS型・SL型を持つ人は外界の影響を受けやすいと推測されています。
LL型を持つ人は白人や黒人に多く、対して日本人をはじめとするアジア人にはSS型を持つ人が多いと報告されています。

 
また、別の視点から見てみると、日本社会では仕事によるストレスが多いのが特徴的です。
ISSP国際比較調査「仕事と生活(職業意識)」(Work Orientations Ⅳ-ISSP 2015)によると、仕事でストレスを感じることが「ある(いつも+よく)」と答えた男性は日本人で5割を占めており、31か国中2位と先進各国と比べて多い結果となっています。女性についてみた場合でも、日本人の半数近くが「ある」と答えており、31か国中4位と各国の中でも上位に入ります。

日本人特有の仕事とストレスの関係については、「Wrike・会社員の働き方とストレス・生産性の関係調査」結果からもその実態が伺えます。
ストレスの原因が職場である場合の行動として、日本では「寝られなくなった」が1位となっていますが、US/UKを見てみると、「新しい仕事を探した」が60.3%ととても高く、職場でストレスを感じた際にとる行動、考え方に大きな違いが出る結果となりました。

出所:Wrike・会社員の働き方とストレス・生産性の関係調査~働き方に関する制度は、大企業ほど充実度が高いが、制度活用への理解度は低くなる傾向~

 
このような考え方の違いには、日本の“村文化”などが影響している可能性があると思われます。欧米では人間関係が良くなければ環境を別に移す思考ですが、村文化ゆえの“同調圧力”が逃げ場のない状況を作り、日本特有とも言えるストレスを生み出しているのではないでしょうか。
※同調圧力…空気を読み、周囲と同じことを求められる。日本人は民族的に同調圧力が強い。

こうした日本人らしい“空気を読み、察して行動する文化”や“人への気遣い精神”などは社会生活を円滑に送る上で決して悪いものではありませんが、個人のストレスについて考えた場合には、多大な影響を及ぼす存在であるのではないかと考えられます。

さいごに

今回は「ストレス」という言葉の意味や歴史などをまとめていきましたが、いかがでしたか。
私はコラムをまとめながら、以前「幸せ太りもストレス太り」と聞いて驚いた当時のことを思い出しましたが、「ストレス=ネガティブ」というイメージの方も多いのではないでしょうか。

ストレス自体が必ずしも悪いものではないことをお伝えしましたが、過度のストレスが心身に及ぼす悪影響は多岐にわたるため、ストレスは上手くケア/コントロールして付き合っていくことが大切です。
次回のコラムでは、ストレスが引き起こす心身の症状や、コロナ禍における日本人のメンタルヘルスについて詳しくご紹介していきたいと思います。