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ストレス症状-身体とメンタルヘルスにストレスが及ぼす影響について

社会課題の一つとして「高ストレス型社会」が挙げられますが、ストレスは私たちの心身にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
 
前回のコラムでは「ストレス」について詳しくご紹介しましたが、今回のコラムでは過度なストレスによって引き起こされる心身の症状についてまとめていきたいと思います。具体的な症状を知ることで、周囲の人がメンタルヘルス不調に陥っていること、もしくは陥る予兆に気付くことができたり、自分自身のメンタルヘルスケアにも役立つはずです。
また、後半ではコロナ禍で悪化した日本人のメンタルヘルスについてもご紹介します。

ストレスによって起こる身体的な症状

ストレスと一言で言っても、その原因となる事柄は多岐にわたります。
例えば、大きな出来事としては「貧困」「戦争」「病気」「学校や職場を失う」「故郷を追われる」「家庭内暴力」、小さな出来事としては「将来への不安」「人間関係での揉め事」などが挙げられます。
人によって、どのようなことをストレスに感じるのか、またその許容度も異なりますが、強いストレスは私たちの心身に様々な影響を及ぼします。
 
 
ストレスによって引き起こされる身体的な症状の具体例としては、「頭痛」「首や肩・背中の痛み」「筋肉の硬直」「喉のつまり感」「胸の苦しさ」「お腹の不調」「食欲の低下/増加」などがあります。
世界保健機関(WHO)が公開している『ストレスを感じたらやるべきこと:イラストガイド』には、ストレスを強く感じた人の多くがどうなるのか、イラスト付きで分かりやすい紹介がありました。

出所:WHO『ストレスを感じたらやるべきこと:イラストガイド』(P.15)
 
 
また、「病気」「感染症」「腸のトラブル」「肌荒れ」などにより身体の不調を感じる人もいます。ストレス関連の疾患には、糖尿病、高血圧、不整脈、胃・十二指腸潰瘍、狭心症、心筋梗塞、脳卒中、不眠、がんの発生、慢性扁桃炎、ヘルペス、う歯周囲炎などがあります。

ストレスが引き起こすメンタルヘルス不調

続いて、過度なストレスが心に及ぼす影響についてみていきましょう。
心の不健康状態を総称する用語として「メンタルヘルス不調」が用いられますが、これには心身症、精神疾患、行動障害などが総合的に含まれます。具体的な“こころの病気”には、下記のようなものがあります。
 

【依存症】
依存症では、日常生活や健康、人間関係や仕事などに悪影響を及ぼしているにも関わらず、特定の物質や行動をやめたくてもやめられない状態となります。依存症には、アルコール・ニコチン・薬物などに関連する「物質依存」と、ギャンブルなどの行動や習慣に関連する「行動嗜癖」があります。現代的な依存症として、テクノ依存症・ネット依存症といったものもあります。

【うつ病】
うつ病では、精神的・身体的ストレスなどを背景に、脳がうまく働かない状態となり、ものの見方や考え方が否定的になります。気分障害の一種。

【強迫性障害】
強迫性障害では、自分でもつまらないことだと分かっていながら、そのことが頭から離れず、何度も同じ確認などを繰り返すなど、日常生活に影響が出でる状態となります。不安障害の一種。

【双極性障害(躁うつ病)】
双極性障害は、活動的な躁状態と、無気力なうつ状態という両極端な状態を繰り返す病気です。

【統合失調症】
統合失調症は、心や考えがまとまりづらくなる病気です。健康時にはなかった状態が表れる「陽性症状」と、健康時にあったものが失われる「陰性症状」の二つの症状があります。
典型的な例として、陽性症状には幻覚や妄想、陰性症状には意欲の低下や感情表現の減少などが挙げられます。

【パニック障害】
パニック障害では、突然何の理由もなく、動悸やめまい、発汗、窒息感、吐き気、手足の震えといった発作を起こし、日常生活に支障が出る状態となります。

【適応障害】
適応障害は、身の回りの環境にうまく適応することができないストレスを抱えることを契機に、不安感・苛立ち・集中力低下などの症状が出現し、日常生活に支障をきたす障害です。

【睡眠障害】
睡眠障害は、睡眠に何か問題を抱えた状態です。夜間眠れなくなる「不眠症」、昼間発作的に眠くなる「過眠症」、昼夜が逆転し睡眠覚醒リズムの乱れる「概日リズム睡眠障害」などがあります。

コロナ禍で悪化した日本人のメンタルヘルス

強いストレスが引き起こすメンタルヘルス不調に関連して、長引くコロナ禍で悪化した日本人のメンタルヘルスについてご紹介したいと思います。

 
経済協力開発機構(OECD)が行ったメンタルヘルスに関する国際調査によると、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、日本国内における「うつ病」「うつ状態」の人の割合が2倍以上増加したことが分かりました。新型コロナウイルスが流行する前に行われた2013年の調査では7.9%だった割合が、2020年の調査では17.3%へと2.2倍の増加。

 
コロナ禍を背景に心のバランスを崩してしまう人は少なく無く、“コロナ鬱”という言葉を見聞きしたことのある方も多いのではないでしょうか。
メンタルヘルスケア事業を手掛ける「ジャパンイノベーション」の社長で精神科医の伊藤英樹氏によると、“コロナ鬱”に医学的な定義はないものの、発症要因は主に3つあるそうです。「感染への不安や予防のストレス」「外出自粛や在宅勤務など生活の変化」「コロナによる社会・経済情勢の悪化」といったことをきっかけに、一般的な鬱病と同じく不眠やだるさといった諸症状が出現するようになり、中でも気分が落ち込んで意欲が低下する「抑鬱状態」が強くみられるといいます。

 
予防策としては、「十分な睡眠の確保」「日に3度の食事など規則正しい生活習慣の継続」が挙げられ、精神的な疲労回復が遅く、老後の悩みや更年期障害が重なる中高年ほど注意が必要だと指摘されています。
また、周囲のサポートとしては“『がんばれ』と励ましたり、急に外出に誘ったりすると当事者の負担になる。不安な思いに耳を傾けるなど緩やかに見守りながら、医療機関の受診を促してほしい”2022.5.12‐産経新聞)と述べていました。
注意深く見ておきたい精神症状として、「身だしなみに気を使わなくなった」「何かをする気になれない」「イライラする」「漠然とした不安感がある」ことが挙げられています。

 
加えて、同記事内に掲載された自殺予防の無料電話相談を行っているNPO「国際ビフレンダーズ大阪自殺防止センター」の北條達人理事長の話では、3年目となるコロナ禍で“心のしんどさが言動に表れる人が増えた”2022.5.12‐産経新聞)そうです。
初期のコロナ禍では、みんなで大変な状況を乗り切ろうという一体感が感じられたが、長引くコロナ禍により倒産する企業もある一方、業績を伸ばす企業も出てくるなど様々な差が生じるようになり、周囲と比較した際に「自分だけがいつまでも辛いまま」といったギャップを感じて孤立や孤独を深める人もいる、というような分析もありました。

 
さらに、国立成育医療研究センター(東京)が2021年12月に小学5年生~中学3年生を対象に実施した「新型コロナウイルスの流行が子どもの生活や健康に与える影響」についての調査では、コロナ禍におけるメンタルヘルス不調を子ども達も抱えていることが明らかになりました。
小学校高学年から中学生の子どもの1~2割にうつ症状が見られ、“自分にうつ症状が出ても「誰にも相談せず自分で様子を見る」”と答えた(郵送調査)割合は、小学5~6年生で25%、中学生で35%と、学年が上がると抱え込む傾向にあることも分かりました。

家庭や教育現場など身近に相談できる機会の必要性が指摘されますが、保護者を対象とした郵送調査では、“自分の子どもにうつ症状が出た場合「病院は受診させず様子を見る」”と回答した人の割合が29%という結果に。長期化するコロナ禍で高いストレス状態が続き、周囲の大人達も余裕がない可能性があるとも懸念されています。
同センターの森崎菜穂社会医学研究部長は“いらいらしている、朝起きられないなどサインに気付いたら「まずは子どもの話を聞くことが大切だ。必要と感じたら、保護者はためらわず相談や受診をさせてほしい」”2022.5.5‐日本経済新聞)と述べていました。

さいごに

過度なストレスが引き起こす心身への影響についてご紹介しましたが、ストレスをケアするにあたり、こうした基礎知識を日頃から身につけておくことはとても大切ではないかと思います。過度なストレスに晒された際、まずはそのような状況に置かれていることに気がつかないと、ケアをすることも無く、相談窓口や支援団体へ繋がることも無いからです。
今回の内容が、ご覧くださっている方の周囲やご自身のストレスケアに役立てば幸いです。

次回のコラムでは、実践的なストレスケアの方法、ストレスを抱えた際に頼ることができる相談窓口・NPO団体をご紹介します。